
Tuesday, September 02, 2025


現代の日本企業、特に中小企業は、深刻な人手不足という構造的な課題に直面しています。少子高齢化の進展により労働力人口が減少する中で、企業の持続的な成長を支えるためには、もはや新卒採用だけに頼るのではなく、多様な経験や専門スキルを持つ即戦力人材、すなわち「中途採用者」をいかに確保・定着させるかが経営の最重要課題となっています。
しかし、多くの中小企業では、中途採用者向けの雇用管理制度(評価・処遇、研修、キャリアパスなど)が十分に整備されておらず、採用した人材が能力を最大限に発揮できなかったり、早期に離職してしまったりするケースが少なくありません。
この「早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)」は、こうした課題を解決するために設計された、極めて戦略的な制度です。本助成金の目的は、単に採用人数を増やすことだけではありません。中途採用者が新規学卒者と何ら遜色なく、安心して能力を発揮できるような「雇用管理制度の整備」を促し、その上で実際に「中途採用率の拡大」を実現した事業主に対して、まとまった額の助成金を支給することにあります。
このコースは、企業の採用体質そのものを改善し、経験豊かな人材が活躍できる職場環境を構築することへの投資を国が支援するものです。特に、以下の2つのアプローチが用意されており、企業の戦略に応じて選択できます。
この解説では、本助成金を活用して、企業の成長を加速させる戦略的な中途採用を成功させるための全ステップを、専門家の視点から詳細に紐解いていきます。
この助成金は、採用する「労働者」と、採用する「事業主」の両方が、それぞれ定められた要件をすべて満たす必要があります。計画を立てる前に、自社と採用したい人材が対象になるかを正確に把握することが最初の重要なステップです。
助成金の申請者となる事業主は、以下の要件を網羅している必要があります。
- 解雇等の制限: 中途採用計画の提出日前日から遡って6か月の間に、事業主都合による解雇等(退職勧奨を含む)を行っていないこと。また、計画期間中から支給決定日までの間も同様です。
- 特定受給資格者の多発がないこと: 計画提出日における被保険者数の6%を超える離職者(かつ4人以上)が、倒産・解雇等の理由で発生していないこと。
- 過去5年以内に雇用関係助成金の不正受給がないこと。
- 申請年度の前年度より前の労働保険料を滞納していないこと。
- 過去1年以内に労働関係法令の違反がないこと。
- 風俗営業等関係事業主でないこと。
- 事業主や役員が暴力団と関係を有していないこと。
計画期間中に採用する労働者が、以下のすべての要件を満たす必要があります。
学校卒業後すぐに就職する「新規学卒者」や、それに準ずる枠組み(第二新卒枠など)で採用された者以外であることが明確である必要があります。
- 期間の定めのない労働契約を締結していること。
- パートタイム労働者でないこと(一週間の所定労働時間が、同一事業所の通常の労働者と比較して短い労働者でないこと)。
雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇い入れられること。
- 雇入れ日の前日から遡って過去1年間に、申請事業主の事業所で雇用、出向、派遣、請負、委任のいずれかの関係で就労したことがないこと。
- また、過去1年間に、申請事業主と資本的・経済的に密接な関係にある関連企業(親子会社など)に雇用されていた者でないこと。
- 雇入れ日時点の年齢が満45歳以上であること。
本助成金を活用するには、まず「中途採用計画」を策定し、その計画に沿って「雇用管理制度の整備」と「対象者の採用」を一体的に進める必要があります。企業の状況や目標に応じて、以下の2つのコースからどちらを目指すかを選択します。
どちらのコースを選択するにせよ、以下の取り組みは必須となります。
「中途採用計画」の策定と提出
本助成金の出発点です。以下の要素を盛り込んだ、計画期間1年間の計画書を作成し、管轄の労働局に提出します。
- 雇用管理制度の整備計画: 中途採用者が活躍できる環境を整えるため、募集・採用以外の分野(例:労働時間・休日、評価・処遇制度、福利厚生など)で、新規学卒者と基本的に同等の制度を適用することを明記します。もし制度が未整備の場合は、計画期間内に整備する具体的なスケジュールを記載します。
- 中途採用の拡大計画: 採用予定職種、人数、時期、配置予定部署、採用時の評価方法、そして採用後のモデルキャリアを具体的に計画します。「採用後にどのようなキャリアを歩めるのか」を明示することが、中途採用者の定着に繋がる重要なポイントです。
雇用管理制度の整備の実施
計画書に記載した通りに、雇用管理制度の整備を実行します。就業規則や賃金規程の改定、新たな評価制度の導入などがこれにあたります。単なる計画だけでなく、実際に制度を整備・運用したことが支給申請時に問われます。
2名以上の対象者の採用
計画期間の1年間で、対象となる労働者を2名以上、期間の定めのない正社員として雇い入れる必要があります。
高い定着率の維持
採用した対象者のうち、計画期間終了から6か月が経過した時点で、離職した者の割合が20%未満であること、つまり8割以上が定着している必要があります。
若手からベテランまで、幅広く中途採用を拡大したい企業向けのコースです。
計画期間(1年間)の中途採用率が、計画開始前の過去3年間の中途採用率と比較して20パーセンテージポイント以上上昇していることが必要です。
- ①計画開始前の過去3年間の中途採用率 = (過去3年間に採用した中途採用者数) ÷ (過去3年間に採用した全正規雇用労働者数) × 100
- ②計画期間1年間の中途採用率 = (計画期間中に採用した中途採用者数) ÷ (計画期間中に採用した全正規雇用労働者数) × 100
- 判定: `② - ① ≧ 20ポイント`
具体例:
過去3年間の全採用者が20名、うち中途採用が6名だった場合、①の中途採用率は30%です。この企業が助成金を受給するには、計画期間中の中途採用率を50%以上(30% + 20%)にする必要があります。例えば、計画期間中に10名採用した場合、そのうち5名以上が中途採用者であれば要件を満たします。
豊富な経験を持つミドル・シニア層を積極的に活用し、事業の中核人材として迎え入れたい企業向けの、より手厚いコースです。
1. 45歳以上の中途採用率を10ポイント以上、引き上げる
計画期間中の45歳以上の中途採用率が、計画開始前の過去3年間の45歳以上の中途採用率と比較して10パーセンテージポイント以上上昇している必要があります。
2. 採用した45歳以上の対象者全員の賃金を5%以上アップさせる
これがコースBの最大の特徴です。計画期間中に採用した45歳以上の対象者全員について、雇入れ後の6か月間の各月に支払われる賃金が、その方が直前の勤務先で得ていた賃金と比較して、いずれの月も5%以上上昇していることが絶対条件です。
- 離職前賃金の確認: 応募者本人の同意を得た上で、「再就職援助計画対象労働者証明書」「給与明細」「源泉徴収票」などの書類で離職前の賃金(毎月決まって支払われる賃金)を確認します。
- 雇入れ後賃金の確認: 雇入れ後6か月間の賃金台帳と照合し、すべての月で5%以上の上昇が実現できているかを確認します。
本助成金の手続きは、事前の「計画フェーズ」と、計画期間終了後の「支給申請フェーズ」の2段階に分かれています。
以下の書類を、計画期間の開始日の前日までに(6か月前から提出可能)、管轄の労働局に提出します。
- 雇用管理制度の内容がわかる書類(就業規則、賃金規程、評価規程など)。未整備の場合は、整備計画を添付します。
- (大企業の場合)中途採用比率を公表していることがわかる資料(自社ホームページの写しなど)。
以下の書類を、計画期間が終了した日の翌日から起算して6か月を経過した日の翌日から2か月以内に、管轄の労働局に提出します。
- 計画期間中に整備した雇用管理制度に関する書類(改定後の就業規則など)。
- 対象者の雇用契約書または雇入通知書の写し。
- 計画期間中およびその後6か月間の対象者の賃金台帳および出勤簿の写し。
- 【コースBの場合】対象者の離職前賃金が確認できる書類(給与明細の写しなど)。
助成金を受給するまでのプロセスを、時系列に沿って具体的に解説します。各ステップの期限管理が成功の鍵です。
【STEP 1】中途採用計画の策定と制度整備の準備(計画開始の6か月前~前日)
自社の課題を分析し、どのような人材が必要か、どのような制度を整備すべきかを検討し、「中途採用計画」を策定します。
【STEP 2】計画届の提出(計画開始日の前日まで)
作成した計画届と添付書類一式を、管轄の労働局に提出します。この提出がなければ、その後の取り組みは全て助成対象外となります。
【STEP 3】雇用管理制度の整備と中途採用の実施(計画期間の1年間)
計画書に沿って、制度整備と採用活動を並行して進めます。採用面接時には、応募者が過去1年間に自社や関連会社で勤務していないかを確認することも重要です。
【STEP 4】支給申請(期限厳守)
計画期間が終了したら、そこから申請準備を開始します。申請期限は計画期間終了日の翌日から起算して6か月を経過した日の翌日から2か月以内です。例えば、2025年1月1日~12月31日の計画の場合、申請期間は2026年7月1日~8月31日となります。この複雑な期限設定を間違えないよう、厳重なスケジュール管理が必要です。
【STEP 5】審査・支給決定・入金
提出された書類に基づき、労働局で審査が行われます。審査には通常数か月かかり、無事に支給が決定されると通知が届き、指定した口座に助成金が振り込まれます。
早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)は、単に採用人数に応じて支給される単純な助成金ではありません。「制度を整備し、環境を整え、その上で採用を拡大する」という、企業の採用力と組織力を根本から強化する取り組みを支援する、非常に価値の高い制度です。
この制度を最大限に活用することで、企業は以下の大きなメリットを得られます。
成功の鍵は、事前の綿密な「中途採用計画」の策定と、計画期間中の着実な実行にあります。手続きが複雑で、自社だけでの対応が難しいと感じる場合は、社会保険労務士などの専門家のアドバイスを受けながら進めることも有効な選択肢です。この助成金を、人手不足を乗り越え、企業の次なる成長ステージへの飛躍を遂げるための戦略的な一手として、ぜひご活用ください。
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