
Tuesday, September 02, 2025


企業経営を取り巻く環境は、技術革新の加速、市場のグローバル化、産業構造の変化など、常に変動しています。こうした変化に対応するため、事業規模の縮小や組織再編、事業所の閉鎖といった経営判断が不可避となる場合があります。その結果として、従業員が不本意ながら離職を余儀なくされるケースは、どの企業においても起こり得ます。
日本の労働法規では、事業主の都合で従業員を離職させる、いわゆる「解雇」については厳格なルールが定められています。特に、経営上の理由による「整理解雇」を行う場合、事業主には解雇回避努力義務が課せられます。これは、配置転換や希望退職者の募集など、解雇を避けるためにあらゆる手段を尽くすべきというものです。
さらに「労働施策総合推進法」では、事業規模の縮小等に伴い離職を余儀なくされる労働者に対して、事業主がその再就職を援助する責務があることを定めています。特に、1か月以内に30人以上の離職者を出す場合には「再就職援助計画」を作成し、ハローワークの認定を受けることが法的に義務付けられています。また、45歳以上70歳未満の従業員が解雇等により離職する場合は「求職活動支援書」の作成が努力義務とされています。
この「早期再就職支援等助成金(再就職支援コース)」は、こうした法的な責務を背景に、事業主が離職予定者に対して行う再就職支援の取り組みを金銭的にサポートし、促進することを目的としています。具体的には、再就職支援を専門とする民間の職業紹介事業者への委託費用や、求職活動のための有給休暇(年次有給休暇とは別)の付与、再就職に役立つ職業訓練の実施にかかる費用の一部を助成します。
この助成金を活用することは、単に法的な責務を果たすだけでなく、離職者の円滑な労働移動を社会全体で支えるという重要な意義を持ちます。また、手厚い支援を行うことで、離職者との間のトラブルを未然に防ぎ、在籍する従業員のエンゲージメントを維持し、企業の社会的責任(CSR)を果たす上でも、非常に有効な制度と言えるでしょう。
この助成金は、支援を実施する「事業主」と、支援を受ける「労働者」の両方が、それぞれ定められた要件をすべて満たす必要があります。どちらか一方でも要件から外れると助成の対象となりませんので、計画段階での入念な確認が不可欠です。
助成金の申請者となる事業主は、以下の要件を満たす必要があります。
人員削減を行う組織(事業部門、事業所、企業単位など)において、以下のいずれかに該当する必要があります。
- 生産量(額)、販売量(額)または売上高などの事業活動を示す指標が、前年同期比で10%以上減少していること。
- または、直近の決算における経常利益が赤字である、もしくは今後3年以内に赤字となる見込みがあること。
すべての従業員について、適正に雇用保険に加入手続きを行っていることが大前提です。
「再就職援助計画」の認定を受けているか、または「求職活動支援基本計画書」を管轄の労働局に提出していることが必須です。これがなければ、いかなる支援を実施しても助成金の対象にはなりません。
助成金の支給・不支給の決定に係る審査に必要な書類等を整備・保管し、管轄労働局等から提出を求められた場合には、速やかに応じること。また、実地調査を受け入れることなども含まれます。
過去5年以内に雇用関係助成金の不正受給がないこと、支給申請日の前日から遡って1年以内に労働関係法令違反により送検されていないこと、風俗営業等関係事業主でないこと、事業主や役員が暴力団と関係を有していないことなどが求められます。
支援の対象となる従業員は、以下のすべての要件を満たす必要があります。
会社の事業規模の縮小など、事業主の都合により離職を余儀なくされる者であること。つまり、「再就職援助計画」または「求職活動支援書」の対象者としてリストに記載されている必要があります。
申請事業主の事業所で、雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として、継続して1年以上雇用されていたことが必要です。
申請事業主の事業所に再び雇用される見込みがないことが明確である必要があります。
再就職支援の措置(職業紹介事業者との契約日、休暇の初日、訓練の申込日など)を開始する時点で、まだ次の就職先が内定していないことが絶対条件です。すでに内定を得ている方への支援は対象外です。
これは非常に重要なポイントです。労働者が、申請事業主や委託先の職業紹介事業者から、退職を強要された、あるいは執拗な退職勧奨を受けたと感じていないことが求められます。助成金申請の際には、労働者本人が「退職勧奨・強要を受けていない」ことに同意する署名が必要になる場合があります。
本助成金の対象となる支援措置は、大きく分けて「①再就職支援」「②休暇付与支援」「③職業訓練実施支援」の3つです。これらは単独でも、組み合わせて実施することも可能です。
最も中心となる支援です。離職者の早期再就職を実現するため、民間の職業紹介事業者が提供する専門的な支援サービスを利用します。
【特例区分】による助成額の割増について
より質の高い再就職支援を奨励するため、以下の要件を満たす委託契約を結んだ場合、助成額が割り増しされる「特例区分」が設けられています。
1. 成功報酬型の要素: 委託料の支払いのうち、契約締結時に支払う額が全体の半額未満であること。
2. 訓練費用の事業主負担: 職業紹介事業者が訓練を実施する場合、その費用を事業主が負担する契約であること。
3. 再就職後の賃金に応じたインセンティブ: 再就職後の賃金が離職前より8割以上を維持できた場合に、職業紹介事業者への委託料を5%以上上乗せして支払う契約であること。
これらの要件を満たすことで、職業紹介事業者はより質の高い求人開拓や手厚いサポートを行うインセンティブが働き、結果として離職者のより良い条件での再就職に繋がりやすくなります。
離職前の在籍中に、対象者が安心して求職活動に専念できるよう、有給の休暇を与える支援です。
早期再就職加算:離職日の翌日から1か月以内に再就職が実現した場合には、通常の休暇付与支援の助成額に加えて、対象者1人につき10万円が加算されます。
再就職先の選択肢を広げ、より良い条件での再就職を可能にするため、専門的な知識や技能を習得する機会を提供します。
本助成金の手続きは、事前の「計画届」と、支援実施後の「支給申請」の2段階に分かれています。それぞれの段階で必要な主要書類は以下の通りです。
支援措置ごとに提出書類が異なりますが、すべての申請に共通して必要な書類は以下の通りです。
助成金を受給するまでのプロセスを、時系列に沿って具体的に解説します。各ステップの期限を守ることが非常に重要です。
【STEP 1】人員削減計画の策定と計画書の作成
経営上の判断に基づき、人員削減の規模や対象者を決定します。並行して、法定義務である「再就職援助計画」または「求職活動支援基本計画書」の作成に着手します。この段階で、3つの支援措置(委託、休暇、訓練)のうち、どれを実施するのかを具体的に計画書に盛り込みます。労働組合等との合意形成もこの段階で完了させます。
【STEP 2】計画書の提出・認定
作成した計画書を、管轄のハローワーク(再就職援助計画の場合)または労働局(求職活動支援基本計画書の場合)に提出します。この手続きは、必ず支援措置を開始する前に行う必要があります。
【STEP 3】支援措置の実施
計画書の認定・受理後、計画に沿って支援を開始します。
- 再就職支援: 職業紹介事業者と契約し、離職予定者への支援を開始します。
- 休暇付与支援: 対象者に求職活動のための特別休暇を付与します。
- 職業訓練実施支援: 訓練機関と契約し、訓練を開始します。
【STEP 4】対象者の離職と再就職
対象者が計画通りに離職し、その後、支援を受けながら求職活動を行い、助成対象期限内(離職後6か月または9か月)に再就職を果たします。
【STEP 5】支給申請
最後の対象者の再就職が決定したら、支給申請の準備を開始します。申請期限は、最後の対象者の再就職日が属する月の末日の翌日から起算して2か月以内です。例えば、最後の対象者の再就職日が6月10日だった場合、申請期限は7月1日から8月31日までとなります。この期限を1日でも過ぎると申請できなくなるため、厳格な管理が必要です。
【STEP 6】審査・支給決定・入金
提出された書類に基づき、労働局で審査が行われます。書類に不備がなければ、申請から数か月後に支給決定通知が届き、指定口座に助成金が振り込まれます。
早期再就職支援等助成金(再就職支援コース)は、事業規模の縮小という困難な経営判断を下した事業主にとって、法的な責務を果たすと同時に、離職する従業員への最大限の配慮を示すための重要なツールです。
この制度を活用することで、企業は以下の大きなメリットを得ることができます。
ただし、本助成金は、事前の計画提出が必須であること、支援内容に応じた複雑な要件があること、そして厳格な申請期限が定められていることから、計画的かつ慎重な準備が求められます。手続きの複雑さに不安を感じる場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することも有効な選択肢です。
企業の社会的責任を果たし、離職者の未来を支援することは、巡り巡って自社の未来への投資にも繋がります。この制度を正しく理解し、戦略的に活用することで、困難な局面を乗り越え、次なる成長への一歩を踏み出してください。
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